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2018年5月30日

芸術監督 曽根麻矢子からメッセージ!

 

バッハから続くチェンバロの道~私の愛する音
曽根麻矢子(チェンバリスト/チェンバロ・フェスティバルin東京 芸術監督)

 

チェンバロ・フェスティバルin東京 第5回は「バッハへの道、バッハからの道」と題し、5つのコンサートを通してルネサンスから現代までの幅広い作品を取り上げます。その多様性を存分にお楽しみいただけたらと思います。

 
ところで、バッハが活躍したのは大体18世紀の前半。そして彼の作品の復興運動が本格化し始めたのが19世紀半ば。けれどもバッハにとって重要な鍵盤楽器であったはずのチェンバロの復興運動が盛んになったのは20世紀になってからでした。つまりバッハ作品の復興運動とチェンバロの復興運動との間には半世紀を超えるタイムラグがあった訳です。その間はチェンバロではなく異なる鍵盤楽器(主に19世紀のピアノ、20世紀のピアノ)によってバッハの鍵盤作品の復興運動は進められました。そのことが20世紀のチェンバロ復興運動に大きな影響を与えたとも考えられます。

 
当時の最新のテクノロジーを駆使してより進化した大きな音の楽器をというモダン・ピアノに準ずる「モダン・チェンバロ」の考え方があり、もう一方にはバッハならバッハの時代の楽器を忠実に再現しようという「ピリオド楽器」的な発想による試みが併存していました。やがて名手ランドフスカの国際的な成功、メンテナンスや使い勝手の容易さといった要因もあり、20世紀半ばにはモダン・チェンバロが優勢となりました。しかし古楽復興運動の急速な進展を背景に1980年代にはピリオド楽器が優勢となり、逆にモダン・チェンバロは少数派で希少種になってしまいました。

 
そうしたチェンバロ復興運動の歴史は20世紀になって新たに創作されたチェンバロ作品に様々な問題を引き起こします。例えば今回私が演奏するファリャの「チェンバロ協奏曲」は仏プレイエル社のランドフスカ・モデルの楽器を前提に書かれています。プーランクの「クラヴサン協奏曲《田園のコンセール》」もまたしかり。また1968年および1978年に書かれたリゲティの作品ではモダン・チェンバロで好んで演奏される曲もある一方で、「ハンガリー風パッサカリア」のように「ミーントーン調律法で」と指定された楽曲もあるといった具合。20世紀のチェンバロ作品においては使用楽器の選択がとても複雑なのです。

 
私もまた多くの古楽奏者がそうであるようにモダン・チェンバロの音色や美学にはどうしても共感できないので20世紀のファリャを敢えて18世紀のピリオド楽器で今回は演奏します。ではこうした矛盾の問題をどう考え、今後どのように解決していくのか? 今回のフェスティバルはそうした問題提起も含んでいます。ご一緒にお考えいただけたらと思います。

(*このあたりの状況についてはネットのニュース「NPJ通信」の音楽評論家谷戸基岩氏による連載「クラシック音楽の問題点第13回《チェンバロのパラドックス》」に詳しい。)

 (Photo/Shunichi Atsumi)

 

6/29(金)~7/1(日)チェンバロ・フェスティバルin東京の詳細はこちらから。

6/29(金)曽根麻矢子チェンバロ・リサイタルの詳細はこちらから。