浜離宮朝日ホール|朝日ホール通信

1992年オープンの室内楽専用ホール。特にピアノや繊細なアンサンブルの音色を際立たせる設計でその響きは世界でも最高の評価を受けています。


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©HisaoSuzuki©TAKAMAYUMI郷古の直截的で清潔な剛直さ北村の知的で澄明な歌郷古廉(ヴァイオリン)北村朋幹(ピアノ)デュオ・リサイタルかんきょう興を温めていった。浜離宮朝日ホールが30周年を迎えた昨秋、ヴァイオリンの郷古廉、ピアノの北村朋幹、チェロの横坂源がトリオを組んで、シューベルトの3作をともに生きた。作曲家の心とともに歌いかける、というありかたに近いところで、ともに30代を歩む3人の個性はていねいに呼び交わしながら、幸福な音楽の感郷古廉のヴァイオリンの直截的で清潔な剛直さに対し、横坂源のチェロには奥床しい温かみがある。2者の弦に馴染む柔らかな響きで、北村朋幹の知的なピアノが澄明な歌を通わせていた。良き時期に良き同志と、かけがえのない音楽に向き合うことの充実がいきいきと伝わってくるのを感じた。作品をこまやかに愛することがそのまま、それぞれを尊重し、アンサンブルの息づかいに繋がるのは、そうかんたんなことではない。3人がトリオで初めて演奏したのは2018年だときく。私が初めて聞いたのは2020年の夏。フォーレとラヴェル、ヘンツェの室内ソナタとブラームスの第1番を横浜で演奏したが、このときはまだこの3人での音楽づくりを模索しているように思えた。その後、2022年3月末には浦安で、シューベルトの第2番を演奏している。それから4月に入ってすぐ横浜で、郷古廉と北村朋幹が初めてのデュオ・リサイタルに取り組み、ラヴェルの遺作、グリーグの第1番、シューマンの第2番という多彩な4ひようせつソナタ・プログラムを演奏した。堂々たる確かさと大きさをもつ郷古のヴァイオリンと、作曲家の真の声を抽き出そうとする北村のピアノが、お互いを聴き合うことで、作品の内実に近づいていくさまがまざまざと伝わってきた。次の機会を待ち望んでいたところへ、新春早々に彼らのデュオ・リサイタルが行われる。ドビュッシー晩年のト短調と夭折したルクーのト長調というフランス/ベルギー近代の名ソナタを組み合わせ、後半ではシェーンベルク最晩年の幻想曲、リヒャルト・シュトラウス20代のソナタを通じてドイツ/オーストリア音楽のゆくえをみつめる。色濃く凝縮された良いプログラムだ。対話に大切なのは、信頼と期待だろう。作品と共演者と、それによってひらかれる演奏表現の可能性への。郷古廉と北村朋幹の個性的なデュオが、新たな進境を示す日となるに違いない。文/青澤隆明(音楽評論)郷古廉&北村朋幹デュオ・リサイタル2024.1/14(日)14:00¥5,000ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタト短調ルクー:ヴァイオリン・ソナタト長調シェーンベルク:幻想曲Op.47R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ変ホ長調Op.18


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