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ウィグモアホールで創造の地平を切り拓いたクァルテット©SylvainGripoixヴァン・カイック弦楽四重奏団次代を担う俊英はロンドンのウィグモアホールから羽ばたく!ウィグモアホールが認めたソリスト、クァルテットに間違いはない──これ、ロンドンのみならず、世界の音楽ファン、音楽関係者の「合言葉」である。今をときめくトップ・アーティストで、このホールと無縁だった人は、いない。フランスで結成され、2015年のウィグモアホール国際弦楽四重奏コンクールで優勝。ウィーン古典派、ドイツ・ロマン派で喝采を博し、近代フランス音楽の花束で客席を魅了してきたヴァン・カイック四重奏団が、満を持して浜離宮朝日ホールのステージに立つ。情趣あふれる響きが、楽の音の疾走が早くも聴こえてくるかのよう。時空を超えたクァルテット芸術とステージに尽くす。これが音楽のフォルムもライヴならではの覇気もお任せあれのヴァン・カイック四重奏団(ニコラ・ヴァン・カイック、シルヴァン・ファーヴル=ビュル、エマニュエル・フランソワ、アンソニー・コンドウ)の身上だ。アルバン・ベルク、アルテミス、ハーゲンの面々から最高の教えを受け、ウィグモアホールで創造の地平を切り拓いたヴァン・カイック四重奏団は選曲からして魅せる。開演に遅れなきよう。ウィーン音楽界をさすらった孤高の歌人シューベルトが、ハ短調で1楽章だけ遺した「四重奏断章」は序奏でも小品でもない。内に外に烈しいシューベルト芸術の昇華で、調べの妖しい変幻を愛8でるヴァン・カイック四重奏団の勝負曲のひとつだ。ファン憧れの「アメリカ」もホールを満たす。摩訶不思議な郷愁を誘う旋律美に心躍る舞曲の味わい。ニューヨークに赴任した稀代の旋律「作家」ドヴォルザークは、母国チェコ/ボヘミアの調べを彩った五音音階、短音階が、新世界たるアメリカの民俗音楽に織り込まれていることを知り、その偶然の近似性に驚く──解説はこれぐらいにしておこう。メインディッシュに胸ときめく。音楽への想いがまさに奔流のごとくあふれ出たメンデルスゾーン「最晩年」の逸品、弦楽四重奏曲第6番ヘ短調作品80だが、これは奇をてらった選曲ではない。メンデルスゾーン全集で声価を高めたヴァン・カイック四重奏団にとってマストアイテムなのだ。悲劇が駆け巡り、哀歌も添えられたメンデルスゾーンへの期待はまさに限りない。最高峰のパフォーミングアーツが近づいてきた。妙技の環にいだかれたいものである。文/奥田佳道(音楽評論家)5/29(水)19:00一般¥5,500U30¥2,000ヴァン・カイック弦楽四重奏団:ニコラ・ヴァン・カイック(ヴァイオリン)シルヴァン・ファーヴル=ビュル(ヴァイオリン)エマニュエル・フランソワ(ヴィオラ)アンソニー・コンドウ(チェロ)シューベルト:弦楽四重奏曲第12番ハ短調「四重奏断章」D703ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第12番ヘ長調「アメリカ」Op.96メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第6番ヘ短調Op.80