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豊穣なるピアノ三重奏の愉しみピアノ三重奏の成り立ちと現在の活況ヴァイオリン、チェロ、ピアノという3つの楽器で紡がれるピアノ三重奏は、室内楽の中でも弦楽四重奏と並んでとりわけ多くの傑作が書かれてきた分野だ。バロック時代のデュオ、トリオ・ソナタや鍵盤ソナタに萌芽が見られ、その後18世紀中頃になって誕生したピアノ三重奏(クラヴィーア三重奏)は、当初はヴァイオリンとチェロ付きのクラヴィーア・ソナタとしての性格が強かった。ヴァイオリンに関しては、じきに独立して旋律を担当するように書かれた作品も登場してくるが、チェロについてはハイドンが18世紀後半に手掛けた作品においてもなお鍵盤楽器の左手声部を補強する役割を担っていたのである。そうした役割からチェロが解放されていったのは、ベートーヴェンやシューベルトが活躍した18世紀終わり頃から19世紀にかけてのこと。この頃になってようやく3つの楽器が対等な関係を築くようになり、その結果として、たとえばシューベルトのピアノ三重奏曲第2番の緩徐楽章や、ブラームスのピアノ三重奏曲第1番の冒頭主題などのようなチェロの名旋律も数多く書かれるようになったのである。その後は、ロマン派の時代から現代に至るまで、作曲家それぞれの個性を落とし込んだ多種多様な作品が生み出されていくことになる。近年、日本では優れた若手奏者たちがこうした室内楽作品の演奏に積極的に取り組んでおり、魅力的なピアノ三重奏団も次々と登場している。第67回ミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ三重奏部門で、日本人団体として初めて優勝を果たした葵トリオ(小川響子、伊東裕、秋元孝介)はもちろんその代表格。他にも、第20回ハチャトゥリアン国際コンクールで第1位に輝いた関朋岳がヴァイオリンを弾くTrioGokokuji関朋岳、原宗史、佐川和冴)など、次世代の名トリオが頭角を現してきており、ピアノ三重奏界隈はにわかに活況を呈している。2濃密なアンサンブル、丁々発止の会話この冬、浜離宮朝日ホールでもピアノ三重奏をテーマとした2つの演奏会が予定されている。清水和音©ManaMiki松田理奈©AkiraMuto向山佳絵子©大窪道治1つ目は、2025年1月26日の清水和音、松田理奈、向山佳絵子による公演だ。前半はシューベルト晩年の傑作、ピアノ三重奏曲第1番。作曲家一流の歌心あふれる作品で、いずれもチェロが歌い出す優美な第1楽章第2主題や第2楽章主要主題が心に染みる名曲だ。後半はチャイコフスキーの不朽の名作「偉大な芸術家の思い出に」。清水の「偉大な芸術家」と聞くと、2017年3月末に上野で聴いた堀正文、イェンス=ペーター・マインツとの熱演が思い出される。そのときはなんともスケールの大きい、骨太な響きに圧倒されたものだった。今回は確かな実力を誇る2人の名女流との共演。清水と松田は2023