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石上真由子江崎萌子デュオ・リサイタル~情念~移ろいゆく調べやハーモニーを抱きしめるかのように、ときに何かに憑りつかれたかのようにと創造の喜びを、共演者、聴き手と分かち合う日々が続く。創造の地平を、大いなる好奇心と会得した鮮やかな技で切り拓き、音楽の魔境や異界をも明らかにするトップアーティスト、とは誉め言葉が音楽評論家的過ぎるだろうか。抜群に弾ける人だが、この人は、ただ弾かない。移ろいゆく調べやハーモニーを、抱きしめるかりつかれたかのように弾く。のように、ときに何かに憑抜群のステージ・プレゼンスを誇るヴァイオリニスト石上真由子が、近年のステージでもリリースされたばかりのCD『他人の顔』でも顔を合わせているピアニスト江崎萌子と浜離宮朝日ホールのステージに立つ。このヴァイオリニストの紹介に、もはやコンクール歴、受賞歴は不要だ。しかし昨年から今年にかけて、彼女の故郷京都の栄えある音楽賞──京都府文化賞奨励賞、京都府あけぼの賞を相次いで受賞したことはお知らせしておきたい。来春の「二重奏」(DuoM&M)。ヴァイオリン好きにはこたえられない選曲だが、マニアックにも映る。心配ご無用。初めて聴いたとして摩訶不思議な郷愁を感じさせる19世紀、20世紀のかぐわしい逸品が、ある種のストーリーをも身にまとい、コントラスト豊かに配されているのだ。彼女はもう何年も前から、神秘性も陶酔性もお任せあれのポーランドの鬼才シマノフスキ(1882~1937)に夢中である。「シマノフスキのコンチェルトを弾きたい。『神話』大好き」といつも叫んでいるかどうかは知らないが、泉、©MasatoshiYamashiro自己陶酔、パンの笛、地中海的な情趣も魅力となる「神話」(1915)は、妖しい楽の音を紡ぐ彼女のヴァイオリンと相愛といえる。音楽の根っこに雅楽やガムランも舞う西村朗(1953~2023)も石上のライフワークで、西村が愛した音楽の概念ヘテロフォニー(変幻する響きの層)がステージと客席の景色をも変える予感。19世紀ドイツ・ロマン派から選ばれた2曲の「二重奏ソナタ」に、胸ときめく。スイスのお気に入りの避暑地で音楽と人生の喜びを歌い上げたブラームスのイ長調。ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートマスター、ダヴィッドの動機(DAFD)もルター派のコラールも織り込まれたシューマンのニ短調。プログラムの最後を駆け抜けるのはロマン派の化身シューマンならではのBewegt(動きをもって、感動して)、Animato(活き活きと)だ。開演が近づいてきた。文/奥田佳道(音楽評論家)石上真由子(ヴァイオリン)×江崎萌子(ピアノ)デュオ・リサイタル~情念~2026.3/6(金)19:00一般¥5,000U30¥2,000シマノフスキ:神話Op.30西村朗:ヴァイオリン独奏のための「モノローグ」ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第2番イ長調Op.100西村朗:微睡Ⅰシューマン:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番ニ短調Op.1215