浜離宮朝日ホール|朝日ホール通信

1992年オープンの室内楽専用ホール。特にピアノや繊細なアンサンブルの音色を際立たせる設計でその響きは世界でも最高の評価を受けています。


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©松尾淳一郎前橋汀子ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全曲伝統の重みと現代的な感覚濃密でありながら自由なブラームス前橋汀子がブラームスを弾く。しかも、ヴァイオリン・ソナタ全3曲。2026年2月の公演は、貴重かつ重要なステージとなる。2022年に演奏活動60周年を迎えた前橋は、日本人としては前人未到の長期にわたり最前線を走り続けてきた。しかも、いまもなお活動の幅を広げている。たとえば、数え切れないほど演奏してきたベートーヴェンをさらに探究するべく、活動50周年をこえた2014年に弦楽四重奏団「前橋汀子カルテット」を結成して、コロナ禍を挟みながら全曲完奏を達成した。そういった探究心と行動力は彼女の芸術を深め続けており、協奏曲での雄大な表現と鋭いキレ、小品での濃厚な歌心など、ヴァイオリンの魅力を伝える至芸につながっている。「前橋のブラームス」となれば、さらなる文脈も加わる。前橋の師は20世紀を代表する大ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・シゲティ。そのシゲティの師は、19世紀後半から20世紀に活躍したイェネー・フバイ(「カルメン幻想曲」の作曲者としても知られる)。そして、そのフバイは1888年、作曲者ブラームスのピアノと共にヴァイオリン・ソナタ第3番を初演している。すなわち、前橋はブラームス自身の語法を直接知るフバイの孫弟子にあたり、大作曲家の奥義が伝えられてきた直系の存在なのである。そういった伝統の重みを体現しながら、演奏解釈のトレンドの変遷も乗り越えてきた前橋が、いまどのようなブラームス像にたどり着いているのか。現在の前橋の演奏は、現代的な感覚も踏まえつつ、19世紀以来の解釈や奏法を今に伝えるような、濃密でありながらどこか自由な表現が際立っている。それはまさしくブラームス演奏に求められる要素であり、初演時の空気をも伝えるような、前橋にしかできないブラームスを聴ける期待が大きい。また、この3曲はピアノが重要かつ技巧的に難曲なことでも知られるが、前橋との共演を重ねてきたヴァハン・マルディロシアンは理想的な共演者となる。指揮者としても知られる名匠にしてピアノの達人で、かつて前橋が学んだロシアの奏法や表現法にも通じ合う。彼のピアノに乗って、前橋のヴァイオリンがどのように羽ばたくのか。さまざまな観点から、私たちにとって大切な時間となりそうだ。文/林昌英(音楽ライター)浜離宮アフタヌーンコンサート前橋汀子(ヴァイオリン)ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全曲2026.2/13(金)13:30¥5,000共演:ヴァハン・マルディロシアン(ピアノ)ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調「雨の歌」Op.78ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調Op.100ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調Op.1084


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