浜離宮朝日ホール|朝日ホール通信

1992年オープンの室内楽専用ホール。特にピアノや繊細なアンサンブルの音色を際立たせる設計でその響きは世界でも最高の評価を受けています。


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アレクサンダー・ガジェヴピアノ・リサイタル浜松国際ピアノコンクールの覇者高まるショパン・コンクールへの期待¥5,0009/8(水)19:006/11(金)発売アレクサンダー・ガジェヴのピアノを初めて聴いたのは、2015年に開催された第9回浜松国際ピアノコンクールの第3次予選の折だった。ストラヴィンスキー「ペトルーシュカからの3楽章」も見事だったが、印象に残ったのはモーツァルトのピアノ四重奏曲第2番だった。腕達者の若者が競う浜松国際で、カルテットとの共演はひとつの試金石ともいうべきもの。しばしば指にまかせて弦楽器のボーイングを置き去りにしてしまうケースが見られる。いわゆる音楽力、アンサンブル能力が問われる場面だ。しかるにガジェヴは、弦を自分の旋律のように聴き、自然な呼吸でしなやかに演奏していた。甘やかな音で使用楽器のShigeruKawaiが良く鳴る。終わったあとが傑作だった。ピアノ四重奏曲の場合、カルテットのメンバーの真ん中でお辞儀するものだが、彼はわざわざ第1ヴァイオリンの横まで移動。聞くところによると、室内楽は初めて(!)なので勝手がわからなかったらしい。演奏は成熟したもので、とても初体験とは思えなかった。18歳でモーツァルテウム音楽院に留学するまで、ロシアの名教師である父親に師事したというのも好感を持った。父親と息子は、意地の張り合いでしばしばむずかしい関係に陥りやすい。しかし、共通の遺伝子をもっているわけだから、うまくいけばこれほど効率のよい教育形態もないだろう。20歳という若さで幅広いレパートリーを求めら10©ShahriyarFarshidれる浜松国際を制したのもむべなるかなである。ガジェヴは、延期された第18回ショパン・コンクールの書類審査に合格し、予備予選進出を決めている。彼の実力からして秋の本大会に出場するのは確実で、浜離宮でのオール・ショパン・プログラムはそれをふまえてのものだろう。「舟歌」、「ポロネーズ」第5番、「マズルカ」作品56、そしてソナタ第2番はYouTubeでも聴けるが、豪快さと繊細さを併せもつすばらしい演奏。聴衆はワルシャワに行かずとも東京でガジェヴのプログラムを聴けるのだから、こんなラッキーなことはない。是非ホールに足を運び、日本のコンクールが生んだ俊英を応援していただきたい。文/青柳いづみこショパン:舟歌、幻想ポロネーズ3つのマズルカOp.56、ポロネーズ第5番24の前奏曲Op.28-13~24ピアノ・ソナタ第2番「葬送」


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