浜離宮朝日ホール|朝日ホール通信

1992年オープンの室内楽専用ホール。特にピアノや繊細なアンサンブルの音色を際立たせる設計でその響きは世界でも最高の評価を受けています。


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中村愛(ハープ)チェロとハープで描き出すラフマニノフの深奥伊藤悠貴(チェロ)チェロとハープという超レアな編成のデュオ。伊藤悠貴と中村愛が昨年6月のオール・フォーレ・プロに続いて登場する。「前回のフォーレで、チェロとも対等に渡り合えるハープという楽器の可能性を示すことができました」(中村)と、この編成に改めて確信を得た模様。中村のYouTubeチャンネルには、なんと《レクイエム》全曲をチェロとハープだけで演奏したその時の映像がUpされており、一見の価値あり。今回は生誕150年のラフマニノフ。ラフマニノフをライフワークとして愛する伊藤が練りに練った選曲だけに奥が深い。バッハ、シューベルト、シューマン、チャイコフスキーが並ぶ前半は、一見ラフマニノフと無関係と思いきや、しっかりトリビュートになっている。「ラフマニノフが大きな影響を受けた作曲家たち。いわば“作曲家ラフマニノフができるまで”です。たとえばシューベルト。ラフマニノフは歌曲を書くにあたり、シューベルトを相当勉強して影響を受けています。今回演奏する〈セレナーデ〉などはピアノ独奏版に編曲してレコーディングしているぐらい。シューベルトを外すわけにはいきません。そしてシューマン。ラフマニノフのピアノ曲に着目すると、ショパンとシューマンが重要です。ショパンの影響は広く知られていると思うのですが、ラフマニノフの作品の中に実はシューマンの色合いの強い部分があることは意外と気づかれていません」(伊藤)後半はたっぷりラフマニノフ。軸は歌曲だ。初期から後期まで年代を辿るように抜粋した。「初期にはチャイコフスキーの匂いがぷんぷんするようなロマン派的な作風だったのが、最後はもう、旋律の美しさになどこだわっていないかのよう。その変遷がよくわかると思います」(伊藤)「後期になるにつれて象徴主義的というのか、言葉の“意味”よりもその“響き”で音楽を作っているのが顕著なんですね」(中村)「器楽だからこそ、言葉の壁を超えて、人の声の奥底に隠れている器楽性、象徴性に光を当てたいと思っています」(伊藤)ラフマニノフへの思いが満ちた構成。自他ともに認めるラフマニノフ・マニアの伊藤をして「かなりお腹いっぱい」と言わせるほどだ。公演が待ち遠しい。取材・文/宮本明(音楽ライター)浜離宮アフタヌーンコンサート伊藤悠貴(チェロ)&中村愛(ハープ)デュオ・リサイタル~ラフマニノフ生誕150年記念~6/29(木)13:30¥5,0003/18(土)発売シューマン:3つのロマンスOp.94チャイコフスキー(M.J.ルパート編):「くるみ割り人形」組曲より「花のワルツ」ラフマニノフ:前奏曲「鐘」〈ハープ独奏〉曳舟人夫の歌ヴォカリーズ交響曲第2番より第3楽章「アダージョ」ほか7


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