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プッチーニはもう一曲、「つばめ」から「ドレッタの美誰かの心に残る、そのような刹那的なものだと思います。しい夢」が歌われる。2021年のびわ湖ホール主催公それ故に〈音楽〉という芸術が私は好きなのです」演で主役を務めた作品だ。パリに咲いた、マノン、ヴィマスネ「マノン」の二重唱に客演するのはテノールのオレッタ、そしてプッチーニ「ラ・ボエーム」のミミとも工藤和真。ピアノは日本におけるリサイタルでいつも共通点があるヒロイン、マグダのアリアである。パートナーを務めている木下志寿子だ。「マグダを歌ったのは、まだコロナ禍の最中で、『蝶々「工藤さんは声に色がありますし、ちょっと危うさの夫人』に本格的に取り組む前のことでした。またこの役ある若い役をぜひ歌っていただきたくて。お願いしたらに向き合える機会があればいいな、と思って歌います」『ぜひ!』と言っていただきました。木下さんは、歌に絶その場限りで消えていく美しさ対合わせてくれる、何があっても大丈夫と思える方。リサイタルはもう本当にピアニストにかかっているので、ありがたい存在です」リサイタル前半はベッリーニ「6つのアリエッタ」とトオペラの舞台が目に浮かぶようなリサイタルになりそスティ「暁は光から」が予定されている。うだ。「ベッリーニのオペラ全曲は『カプレーティ家とモンテッキ家』しか経験がないんです。実は、最近フランスから『ノルマ』を歌わないか、というオファーがあったのですが、今の私の声では難しいと思いお断りしました。今後機会があれば挑戦するかもしれませんが……。『椿姫』を歌うにしても、ベルカントのアプローチという意味で(その前にある)ベッリーニはちゃんと見つめたいと思っています」中村は先頃ロンドンで、ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」初演版の世界初スタジオ録音にアメーリア役で参加した。現地で行われた演奏会形式の公演でも絶賛されている。「あれは私の初めてのスタジオ録音で、おそらく最後です。『シモン・ボッカネグラ』は急な代役でした。通常版とは音楽がかなり違い、また稽古初日が迫っていたため、他に誰が引き受けるのかという状況の中での判断でした。これまでのライブの映像・録音などは残っていますが、私がスタジオ録音をしない理由は、ひとつは消えてもいい声だと思っているから。それに、技術的なことを言うと、私は録音を始めたら終わらないからです。納得がいくことがないので……。今は写真でもInstagramなどにあげて残ったりとか、逃げられないじゃないですか。音楽も同じで、残ってしまうからこそ、正しさを証明する為の音楽をやっているように感じるものもあるように思います。もちろん皆がそうではありませんが……。私の歌は、粗さもあるし、傷もあるけれど、でも何かが伝わって、そのまま消えればそれでいい。録音されて残ると思うと、私の歌ではなくなってしまうように感じることもあります。私が志す芸術がもしあるとするなら、発した瞬間消えて取材・文/井内美香(音楽ライター、オペラ・キュレーター)工藤和真©FUKAYAauraY2木下志寿子中村恵理ソプラノ・リサイタル11/5(火)19:00¥5,500共演:木下志寿子(ピアノ)、工藤和真(テノール)ベッリーニ:6つのアリエッタトスティ:暁は光からマスネ:歌劇「マノン」より第2幕「さようなら、私たちの小さなテーブルよ」第3幕サン・シュルピス神学校の2重唱「君、いや貴女なのか!」プッチーニ:歌劇「つばめ」より「ドレッタの美しい夢」プッチーニ:歌劇「マノン・レスコー」より「一人捨てられて」ほか(テノール客演:工藤和真)3