浜離宮朝日ホール|朝日ホール通信

1992年オープンの室内楽専用ホール。特にピアノや繊細なアンサンブルの音色を際立たせる設計でその響きは世界でも最高の評価を受けています。


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ショパンコンクール最年少入賞から9年遊び心とファンタジーにあふれるプログラムイーケ・トニー・ヤン2015年、ショパン国際ピアノコンクールで第5位に入賞して注目を集めたイーケ・トニー・ヤン。当時の彼は16歳、その回から1歳引き下げられた下限年齢ぎりぎりの出場者だった。もともと5年後の次の回に挑戦するうえでの経験を積むためにエントリーしたつもりだったというが、若くまっすぐな情熱を投影したかのようなショパンが評価されて、最年少入賞を果たした。彼は1998年、中国の重慶市に生まれてカナダに育ち、トロント王立音楽院やジュリアード音楽院で学んだほか、ダン・タイ・ソンの薫陶もうけた。前回2021年のショパンコンクールで同じくダン・タイ・ソン門下のブルース・リウが優勝したことは記憶に新しいが、近年、カナダで育った中国系ピアニストの活躍は目覚ましい。イーケ・トニー・ヤンもまた、自由な音楽活動が期待される新世代の一人だ。ショパンコンクール入賞から早9年。コンクール後、北米で学ぶ演奏家にしばしば見られるように、一般大学であるハーバードで学びながら、ニューイングランド音楽院で演奏家としての研鑽を積む道を選んだ。今は欧米だけでなく、東南アジアや中東などさまざまな地を股にかけて演奏活動を行い、見聞を広げている。そんな彼が今度の来日公演で披露するのは、遊び心とファンタジーにあふれるプログラム。モーツァルトが同時代の作曲家、ドゥゼードの音楽劇から主題をとって書いた愛らしい変奏曲、そのモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の「お手をどうぞ」から主題をとって書かれたショパンの「ラ・チ・ダレム変奏曲」では、イーケ・トニー・ヤンの純粋でのびのびとした音楽性を楽しむことができるだろう。そしてスクリャービンの「幻想曲」、ショパン晩年の「幻想ポロネーズ」やピアノ・ソナタ第3番では、持ち前の優し6さの滲み出る音が歳とともにどのように深まったのかを確かめることができる。バラエティに富んだ聴きごたえたっぷりの演目には、作品をつなげることで見えるストーリーへの想い、今彼が日本の聴衆に見てほしいものが込められているように思える。強さと柔軟性を兼ね備えた若きピアニストの多面的な魅力、彼が伝えようとするメッセージをしっかりと受け取りたい。文/高坂はる香(音楽ライター)イーケ・トニー・ヤンピアノ・リサイタル9/21(土)発売12/19(木)19:00一般¥5,000U30¥2,000モーツァルト:ドゥゼードの「ジュリ」の「リゾンは眠った」による9つの変奏曲ハ長調K.264モーツァルト:ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調K.282ショパン:「ドン・ジョヴァンニ」の「お手をどうぞ」による変奏曲変ロ長調Op.2スクリャービン:幻想曲ロ短調Op.28ショパン:ポロネーズ第7番「幻想」変イ長調Op.61ショパン:ピアノ・ソナタ第3番ロ短調Op.58


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