浜離宮朝日ホール|朝日ホール通信

1992年オープンの室内楽専用ホール。特にピアノや繊細なアンサンブルの音色を際立たせる設計でその響きは世界でも最高の評価を受けています。


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――今回のコンサートで、ヴァイオリンはガット弦を張った銘器を使い、ピアノは1830年製のローゼンベルガーを使われますね。チャイ2023年から3回にわたってベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲を録音しました。その時にもローゼンベルガーを使っていましたが、この浜離宮朝日ホールでのコンサートでは、その録音時に使ったローゼンベルガーの甥が作ったフォルテピアノを使います。日本にある楽器ですが、長い時間を経て、その一族の楽器に出会えるのはとても楽しいことです。佐藤ヴァイオリニストから見ると、フォルテピアノはやはり古い楽器ですから、時間が経つにつれて疲れてくることがあります。音程も少しずれてくる。そこで、実際のコンサートでは、フォルテピアノを支える技術者の努力も大きな要素となります。チャイベートーヴェンの最後のヴァイオリン・ソナタでは6オクターブの音程を必要としますが、フォルテピアノの場合、そこまでの幅広さを持った楽器ではない場合もあります。そうした時は、音を1オクターブ下げたりするという変更も必要になるのです。ベートーヴェンに霊感を与えたブリッジタワー――ベートーヴェンの10曲をどんな順番で演奏するか。それももしかしたら頭を悩ませる点ですね。佐藤今回は3回のコンサートに分けるので、あらためて考えてみました。いわゆる有名曲とされる第5番「春」と第9番「クロイツェル」は分けた方が良いだろうし、ほかには調性の関係に気をつかって分けてみました。たとえば、長調と短調が交互にくるように配置するとか、それぞれの調の関係性を意識するとか。やはり初期と後期の作品ではかなり音楽の性格も変わってくるので、その流れをなるべく意識するなど。その結果として出来上がったのが今回の10曲の配置です。――ひとつ、とても興味深いタイトルの作品があります。それは第9番です。普段は「クロイツェル」とのみ表記されることが多いのですが、今回は「クロイツェル/ブリッジタワー」とふたりのヴァイオリニストの名前が並んで記されています。その意図は?チャイエピソード豊富な作品のひとつですね。ただ、クロイツェルはあくまでもベートーヴェンがこのソナタを献呈したヴァイオリニストの名前であって、この作品を書くインスピレーションを与えたのは、実はブリッジタワーでした。ベートーヴェンとブリッジタワーは出会うと意気投合し、とても仲の良い存在となりました。ベートーヴェンはヴァイオリニストとしてのブリッジタワーの才能をとても高く評価していたので、新しい作品を書こうと思ったのです。そして、演奏会に間に合わせるために急いで書いて、ふたりで初演をしました。その時のドキュメントによれば、ベートーヴェンは第1楽章が終わったところで、感激してブリッジタワーを抱きしめたとも言われています。しかし、その後ふたりは何かの原因で喧嘩別れをしてしまい、この作品はフランスのヴァイオリニストであったクロイツェルに献呈されました。結果としてそのクロイツェルの名前だけが後世に残ることになってしまいましたが、実際に作曲家に霊感を与えたのはブリッジタワーであったということで、今回、こうした表記にすることにしました。――他のヴァイオリン・ソナタにもきっと何か隠されたドラマがあったのかもしれませんね。おふたりの演奏を聴きながら、そんなことも想像してみたいと思います。秋が待ち遠しいです。取材・文/片桐卓也(音楽ライター)2024年10月11日浜離宮朝日ホールでの公演©松尾淳一郎佐藤俊介(ヴァイオリン)&スーアン・チャイ(フォルテピアノ)ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全曲10/9(木)19:0010/10(金)14:00/19:00各一般¥5,000各U30¥2,0003公演通し券¥12,000ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全曲◆10/9(木)19:00第1番、第2番、第4番、第5番「春」◆10/10(金)14:00第3番、第6番、第9番「クロイツェル/ブリッジタワー」◆10/10(金)19:00第7番、第8番、第10番3


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