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デイヴィッド・ラッセルギター・リサイタル世界中のギタリストが憧れるギタリスト円熟の境地で奏でる「スペインの城」全曲デイヴィッド・ラッセルさんは若かりし頃、“知る人ぞ知る名手”でしたが、1980年代にギターのロマンティックなオリジナル作品やバロック音楽に新たな光をあてた名演の数々の録音をリリースするうちに、果たせるかな“現代最高のギタリストのひとり”としての世界の評価が彼の演奏に追いつきました。以来今日に至るまで、グラミー賞の受賞はもちろんのこと、2020年からのパンデミック時においても人々の希望の灯をつなぐかのごとき感動的なバッハ演奏の配信リリース、いつも変わらずまったく歩みをとめない洗練と進化は、当代随一の巨匠の座を揺るぎないものにしています。世界中の音楽愛好家やフェスティバルがデイヴィッドさんの登場を心待ちにし、世界中の名だたる作曲家がデイヴィッドさんに曲を捧げています。にもかかわらず、デイヴィッドさんの気さくさはその演奏と同じくらいに世界中で愛されているので、彼のことを、“世界中のギタリストの頂点に立つギタリスト”、と呼ぶよりも、“世界中のギタリストが憧れるギタリスト”、とご紹介する方が、なぜだかしっくりくる気がしてしまう。学生の頃、わずかに一度レッスンを受けることができただけの僕にさえも、そう思えてしまうほど、お人柄も素敵なマエストロなのです。今回の来日プログラムには、彼が得意とする作品がたくさん含まれているばかりか、1996年にその全曲を収録したアルバムが決定的な名盤となったフェデリコ・モレノ・トローバの「スペインの城」全曲が掲げられています。モレノ・トローバは、プラシド・ドミンゴが三大テノールのコンサートでそのアリアをプログラムに入れたほど、スペインの国民的な歌劇「サルスエラ」の作曲の大家として知られた人です。言わずもがな、その溢れる歌心でスペイン各地の名城を描いた組曲を、円熟の境地のデイヴィッドさんの鮮やかな技巧と甘美な音色で味わうことができるのです。端正で強靭な演奏技術と色彩豊かな美音の向こう側にかいま見える、デイヴィッドさんの素晴らしいスピリットに包まれれば、誰もが瞬く間にとりこになってしまうことでしょう。まさに今こそ、彼の演奏に出会える幸運を寿ぐべき時に違いありません。文/鈴木大介(ギタリスト)デイヴィッド・ラッセルギター・リサイタル11/6(木)19:00¥6,500ガルシア・トルサ:ワルツ(君を想って)モレノ・トローバ:組曲「スペインの城」全14曲)マルチェッロ(D.ラッセル編):ソナタサインス・デ・ラ・マーサ:サパテアード、ロンデーニャ、「神の前にて」より「牧歌」エスタレージャス:「チャールズ・チャップリン讃歌」より8